『学習コンピュータ』1972

『学習コンピュータ』学習研究社

この時期の毎号の目次には「コンピュータは人類の造った偉大なマシン。よりよき活用が,明日の社会を演出する」という標語が掲げられている。

[1月号]

特別企画「絵で見る未来のコンピュータ都市」(文・南條優/絵・緒方健二)14-23頁

世界最初のコンピュータENIAC誕生から25年が経過した時期に描かれた未来予想図。日本におけるコンピュータが1万台を超えようとしていると記されている。「ショッピング」「交通」「レジャー」「ビジネス」「家庭生活」「ロボット」のシーンに分けられ,未来の教育は「家庭生活」の中で扱われた。見出しと内容は次の通り。

家庭用CAIでも専門知識をマスター

学校ではあまり学問を教えなくなった。かつての学校教育と家庭教育が逆になったような形で,学校では友達との交流やさまざまな実習,あとは体育,情操教育などで,各種の専門知識は家庭用のCAIや企業教育に委ねられるようになってきた。

今日議論されている教育と学習の方向性を当時から正確に描写していることが分かる。「レジャー」ではゲーム用ロボットが紹介され,碁でも将棋でも互角のおもしろい勝負をすることができると解説されているあたり,深層学習によるAIブームが到来した今日に読み返すと興味深い。

高校教育とコンピュータ「研究すすむ秋田県のコンピュータ教育」82-85頁

当時の『学習とコンピュータ』には不定期連載「高校教育とコンピュータ」がある。『学習とコンピュータ』誌の主な読者対象として高校の情報処理教育関係者が含まれていることも関係しているだろう。1972年1月号では「研究すすむ秋田県のコンピュータ教育」として,秋田県の由利工業高校の様子が取り上げられている。

[2月号]

高校教育とコンピュータ「数学教育向き最新電卓特集 =出そろった新型機種一覧=」64-71頁

昭和46年度は数学教育特別設備基準10年計画の初年度であり,数学教育用に電子式卓上計算機の整備導入が進められた。昭和47年(1972年)は計画の2年目となり,記事では指導上のポイント解説と合わせて,性能向上した各メーカーの最新機種を一堂に紹介している。分類した指導コース毎にどのような特徴を持った電子式卓上計算機が良いのかを指南している。

フラッシュ・ルポ「女ひとりコンピュータの最前線をゆく =日本情報処理開発センター山本欣子さんをたずねて=」58-61頁

コンピュータ業界で活躍する女性に焦点を当てた記事。業界における女性比率が圧倒的に低い時代ではあったものの,その世界で闘うだけの優秀さを兼ね備えた人ばかりだったと推察される。同時期には,ワープロソフト一太郎の開発者で知られる浮川初子さんの存在も思い浮かぶ。

[3月号]

高校教育とコンピュータ「商業の先進校をもつ北海道」90-93頁

昭和46年に小樽商業、旭川商業、奈井江商業の3校で情報処理科が設置され、全国的にもレベルの高い先進的な取り組みがなされていると紹介されている。たとえば小樽商業は、昭和40年から情報処理教育の取り組みが始まり、商業科3年生が「事務機械」で18時間のコンピュータ概論とフローチャートの基礎教育を学んだという。昭和44年には「事務科」を設置し、昭和46年に「情報処理科」と名称変更して内容も充実させた。昭和47年3月に初めての卒業生を92名輩出。卒業生の前途は洋々たるものだと記事は結んでいる。

[6月号]

特別企画「もう,ここまで育った日本のコンピュータ社会」60-69頁

 

Computer教育「教育用コンピュータによる授業効果」76-79頁

副題は「CECマシンを使った千代田学園の現場レポート」とある。情報処理技術者養成の教育現場におけるコンピュータの導入について学校関係者自身が紹介している。この学校では電子工学とともにプログラム言語も教え、機械語やアセンブラ言語からコンパイラ形式の言語をコンピュータ上で動かす実習も行なっていたらしい。導入したCEC 556という計算機に関する長所、短所を指摘し、メーカーへの提言もされている。

[7月号]

高校教育とコンピュータ「ヴェールをぬぐ教科書“電子計算機一般”」80-83頁

「7月の展示会を前に,その内容とねらいを分析する」との副題に各出版社からの教科書の内容を概観して比較解説した記事。取り上げられたのは,電気学会通信教育会,数研出版,実教出版,大日本図書の4つ。以下,記事リードより。

 昭和48年から実施される新しい学習指導要領にもとづいた「電子計算機一般」の教科書が今年度4点,官報に告示された。
 全国各地ですすめられている高校の情報処理教育にとってこれで初めて教科書が生まれたわけで,本格的な教育体制に一歩をすすめたといえる。そこで,本稿では,これらの教科書をとりあげ,そのねらいやすすめ方の特徴を紹介してみよう。 

数研出版版をアルゴリズム重点主義,その他は実践学習主義であるといった分析など,それぞれの教科書の特徴を明示することを通して,情報処理教育で学習する内容の全体を読者と共有する記事となっている。

コンピュータ実践校登場
「愛媛県松山商業高校 =県の商業教育の中心校として=」「岐阜県大垣工業高校 =生徒の自主的活動を尊重=」84-85頁

 学校紹介も1校1頁とコンパクトになっているが掲載されている。どちらの学校も新たなコンピュータシステムが導入されたことが触れられており,情報処理教育がどんどん広まろうとしている当時の空気が感じられる記事となっている。

[8月号]

 I/Oセミナー「カード・パンチ・マシーンの歴史」76-79頁

コンピュータよりも古い歴史のあるパンチ・カード・システム(PCS)に関する集中連載。アメリカの国勢調査における集計作業を効率するために,連邦統計局技官ハーマン・ホレリスによってPCSが発明されたという。彼が後に設立した会社は,IBM社の前身企業のひとつとなる。記事では,日本でのPCSの歴史についても触れながら,コンピュータへの情報入力機器としてパンチ・マシーンが依然重要な機器であることが論じられている。

コンピュータ実践校登場「熊本県熊本女子商業高校 =女子だけの情報処理科=」「福岡県久留米工業高校 =ソフトウェア・コースを新設=」80-81頁

今月の情報 84頁

情報科学大学院の設置
文部省へ提出

 コンピュータ時代にマッチする技術者の養成について検討をすすめてきた文部省の「情報処理教育に関する会議」は,専門研究者を養成するのは大学院で行なうのが最も適当であるとして,新しく「情報科学大学院」を新設すべきだと強調したレポートを発表した。
 提案した情報科学大学院は,従来の大学院にある閉鎖性を一切とり除いた形で設立する方針である大学のどの学科の卒業生でも,自分の修めた専門分野でコンピュータ利用についての研究を発展させることができる。また入学資格は問わず大学卒業程度の学力があれば企業で働いている人も可能。
 また,修業年限も2年を原則とするが都合で5年間に延ばすこともできる。 思いきった新しいタイプの大学を計画しており,関係者から高く評価されている。実現の見通しははっきり固まっていないが,10年後には現在の10倍近い50万人のコンピュータ技術者が必要だと叫ばれているときでもあり,かなり思い切った措置が文部省から打ち出されてくる可能性もある。

[9月号]

やあ先輩! よう後輩!「コンピュータに道徳教育を!」12-15頁

6月号から短期連載(4回)「やあ先輩! よう後輩!」が掲載され,架空のコンピュータ談義が掲載されている。執筆者は南條優氏であり,1月号の特集同様に卓見した未来像を背景にコンピュータを論じている。最終回は,人々がコンピュータの中にとっぷりつかって生活するようになる未来に対して,次のように先輩を語らせている。

道徳は人間として共通にあるもので思想に優先するんだね。ソフトウェアに早く道徳観念を確立しておかないと,政治や商業にあやつられた情報化社会が実現するおそれがある。それを防止する前提として人間性の確立があると思うね。

コンピュータ実践校登場「広島県呉商業高校 =情報処理教育用別館新設=」「岡山県岡山工業高校 =各科に情報処理の基礎概念を=」84-85頁

[10月号]

事務機械化への歴史「ビリング・コンピュータの歴史」70-71頁

伝票(ビル)を作成・処理するマシンが発達し,コンピュータ的処理をするようになった機器をビリング・コンピュータと呼ぶ。中央コンピュータを利用する手前の仕事を効率的にこなす機器として1962年に東芝がTOSBAC-1100Aを発表してから,他社も参入し,一つの市場を形成したことが紹介されている。

コンピュータ実践校登場「群馬県桐生工業高校 =テーマ別実習を中心に=」「北海道札幌啓北商業高校 =流れ図の作成を重点的に=」80-81頁