[歴史のシミ][#1] 『情報教育に関する手引』

 『情報教育に関する手引』というものがあります。学習指導要領の改訂と歩調を合わせて作成され,現在は『教育の情報化に関する手引』という名前になっています。

 今回のネタは,平成元年の学習指導要領改訂の時に初めて登場した『情報教育に関する手引』が一体何年に作成されたのか,です。

 「手引」の最新版である『教育の情報化に関する手引』(平成22年)を参照すると,明確に「平成2年7月」という日付が書いてあります。つまり1990年です。

 ところが,興味深いことに『情報教育に関する手引』について触れる様々な記事や論文を漁ってみると「1989年」であるとか「平成3年(1991年)」であるとか記録しているものがあるのです。
 実際,私自身(林向達)が所有している実物の冊子の表紙には「平成3年7月」と記載されていますし,奥付の発行年は「平成3年8月30日」と明記されています(付け加えるなら,私の所有しているものは平成4年に再版したもの)。

 また,丸善が発行している『情報教育事典』の項目「情報教育の手引き」では,「平成3年8月に文部省が作成した冊子体資料は…」と記述しています。

 さらに,文部科学省のWebサイトに掲載された会議関連の配布資料の中にも「平成3年7月」と明記されたものがあります。

 ここまでの事実を総合すれば,次のような単純な推測ができます。「平成2年に出来上がった手引の内容を印刷発行したのが平成3年である」と。

 Webで公開することが一般的ではなかった時代ですから,そのようなズレがあっても不思議ではありません。

 だとすれば,「平成2年(1990)」と「平成3年(1991)」の混乱はこれが理由となるのでしょう。「1989年」になってしまった理由についてははっきりしませんが,年号と西暦の変換間違いかも知れません。

 しかし,この話には続きがあります。

 内容の完成と冊子の発行がズレたという説にも疑問を投げ掛ける記録が残っているのです。

 「平成2年7月」の日付で冊子化された『情報教育に関する手引』のことを紹介している記事が存在します。文部科学省が発行していた『教育と情報』平成2年11月号には,表紙の写真付きで『情報教育に関する手引』の内容と出版社と値段まで明記されているのです。

 その痕跡は「平成3年7月」と表紙に印刷された実物の冊子にも残っています。文部省初等中等教育局長が記した「まえがき」の日付は「平成2年7月」なのです。

 ということは,冊子には2つのバージョンがあるということでしょうか。しかし,残念ながらそのことを説明できる情報を見つけられていません。もし,単純な誤植であるならば,再版時に訂正されなかった理由が謎になります。

 『情報教育に関する手引』について指し示す場合,内容が完成したことを説明したいのであれば「平成2年7月」を使用するのが妥当ですが,広く流布するための冊子が発行したのが「平成3年7月」と考えるべきなのか,「平成2年7月」(あるいは平成2年内)と考えるべきなのかは,調査を続けているといったところです。  

(2012年3月1日初出:3月22日ノートへ転記)

【後記】20120322
 この「歴史のシミ」について、いろんな方からの情報のもと、印刷冊子には2つのバージョンが存在したという結論にいたります。つまり、「平成2年7月」表紙の白表紙(内部用)版と、「平成3月7月」表紙の市販版です。

【追記】20121221
 なお,現行『教育の情報化に関する手引』は開隆堂から印刷冊子が販売されています。

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 「教育情報化の歴史のシミ」シリーズは,Facebookページ「教育情報化の後先」で掲載されたコラムです。こちらのブログにも再録しておきます。
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